東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)59号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 引用例の記載内容
1 引用例には、制御片7によつて、打球を単位時間当りに一定数宛発射位置に補給することによつて連射による客の射倖心を抑制する旨の記載があることは当事者に争いのないところである(成立に争いのない甲第三号証の一頁右欄二五行ないし二八行)。
2 そこで、引用例に記載された旋回底板について検討する。
(一) 前掲甲第三号証によれば、引用例には、旋回底板について具体的には、「図示の実施例(別紙図面(二))によれば、通路6は末部において底が切り開かれ、旋回底板14にはバランスウエイト15が取付きレール5の始部に球が留まり、これに詰つて通路6中に球を滞留する場合、この滞留球出重量(「出」は「の」の誤記)で旋回を強制させられて該球を外部例えば賞球受皿に放出するようになつている。」との記載(一頁右欄一八行ないし二四行)があるのみであることが認められる。
(二) 当事者間に争いのない審決摘示に係る引用例の記載内容、旋回底板に関する引用例の右具体的記載及びその添付図面である別紙図面(二)によれば、旋回底板による滞留球の放出態様について、引用例には次のとおり示されているということができる。すなわち、通路6(誘導路)の終端である発射位置(玉打位置)から旋回底板14の端部(枢支部)との間の通路6には数個(図面上は三個)の球が滞留し得る空間があり、旋回底板に設けられたバランスウエイト15と旋回底板上に滞留する球(図面上は四個)の重量とのバランスによつて旋回底板が旋回するものであることから、玉打位置と旋回底板の枢支部との間の通路6に滞留する数個(図面上は三個)の球及び旋回底板を旋回するまでには至らない旋回板上に滞留可能な数個(図面上は三個まで)とを合算した個数の球(図面上は六個まで)は前記通路6と旋回底板上に滞留し得るが、旋回底板上に滞留可能な個数(図面上は三個まで)を越えて球が送られてくれば、同板は旋回し、同板上の球はすべて外部例えば賞球受皿に放出される。
そうであれば、引用例記載の旋回底板はその旋回により板上の球を放出し、玉打位置と制御片(定速玉送り装置)間の通路に一定数以上(図面上は七個以上)の球が滞留することを阻止する機能を果たしているが、通路の終端である玉打位置から旋回底板の枢支点に至るまでの間及び同板上に滞留する右一定数に達しない数(図面上は六個まで)の球を放出する機能までは有しないものというべきであり、引用例にはこれに反する記載はない。
このように、引用例記載の旋回底板は、一定数以上の球が滞留したときこれを放出するものであるが、放出してもなお玉打位置の背後には一定数の球が滞留することになるところ、右放出前の滞留球及び放出後の滞留球については、後記三、2において詳細に検討するように部分的早打ちが可能となるから、旋回底板の旋回が打球を単位時間当り一定数宛発射位置に補給し、連射による客の射倖心を抑制するという効果を生ずるものということはできない。したがつて、引用例における射倖心抑制効果は前記のように制御片が果たしているものというべきであつて、審決の摘示する引用例の記載内容中原告主張の部分は誤認であり、審決は引用例においても部分的早打効果を奏するものであることを看過しているというほかない。
(三) 被告は、別紙図面(二)から引用例の記載内容を把握できない旨主張する。しかし、引用例には旋回底板につき前記のような記載があるだけであるから、その添付図面である別紙図面(二)3図(作動説明図)を参照して引用例記載の旋回底板の構成及び機能を把握することはもとより差支えないものというべきである。被告が疑問視する別紙図面(二)の3図のうち外部に落下している二個の球は旋回底板の旋回による球の落下経路を示すものと認めるのが相当である。
三 本件考案と引用例記載の考案との対比
1 両考案は、玉受皿に連結した誘導路の途中へ定速玉送り装置を設けたパチンコ遊技機であり、誘導路の終端を玉打位置に導く点で一致することは当事者間に争いがない。
2 玉送り装置と玉打位置との間の誘導路の構成が、本件考案では待機路であるのに対し、引用例記載の考案では旋回底板であることも当事者間に争いがなく、両者はこの点において相違することが明らかである。
ところで、審決が前記審決の理由の要点4で摘示するとおり、本件考案が部分的早打を目的とし誘導路を待機路として形成することによりその効果を奏していることは当事者間に争いがない。一方、引用例記載の考案においても、旋回底板は、前認定のとおり、一定数に達しない同板上の球の滞留を阻止する機能を有せず、また、同板の枢支部と玉打位置の間の通路においては球の滞留を阻止する機能を有しないのであるから、客が球を打つのを休んだ場合又は定速玉送り装置の送り出し速度より遅い速度で球を打つ場合には、定速玉送り装置と玉打位置との間、具体的には旋回底板上と玉打位置又は旋回底板の枢支点と玉打位置との間には一定数の球の滞留が可能である。そうであれば、引用例の構成においても、球を打つのを休んでもその間定速玉送り装置は作動しているので、球は引続き送り込まれて玉打位置から通路を通じ旋回底板上に留まり、再び球を打ち始めたときには右の滞留球の限度で制限以上の速さで打つことが可能であるが、休んでいる時間を通算すれば一定時間に対する制限個数以上で打つことができないという本件考案同様の部分的早打の効果を奏しているものということができるのである。
3 もつとも、これまでに認定した事実によれば、引用例記載の考案は旋回底板により制御片と玉打装置との間の滞留球数即ち部分的早打ち可能な球数をできるだけ少なくする効果を奏するものであり、本件考案とは逆に部分的早打効果を減少させることを目的としたものと認められる。しかし、引用例記載の考案においても、前認定のように、一定数の球の滞留を許容しているということは、その限度で部分的早打効果を是認したうえで、旋回底板を設ける構成を採択したものということができる。また、本件考案において部分的早打効果を増大させるといつても、滞留球数について限定はなく、パチンコ機の定速玉送り装置と打玉位置との間の誘導路の長さに自ら制約があるから、これに伴い滞留する球数にも限度があり、引用例の考案と対比し、その部分的早打効果の差は程度問題にすぎないものというべきである。したがつて、引用例記載の考案が一定数の球の滞留を許容している範囲において、本件考案の技術的思想は引用例に示唆されているといわなければならない。
四 以上のように、審決は引用例を誤認したうえ、本件考案と引用例記載の考案が別異の技術的思想によるものであるとし、これをもつてしては本件登録実用新案を無効とすることはできないとの誤つた判断をしたものである。そして、かかる誤りがその結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法なものとして取消を免れない。
五 よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註その一〕 本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
パチンコ遊技機の玉受皿2に連結した誘導路3の途中へ定速玉送り装置を設けたパチンコ遊技機1において、誘導路3の終端を玉打杵4の直前、すなわち玉打位置に導き、送り装置と玉打装置との間を打玉待機路11としたパチンコ遊技機における打玉待機装置(別紙図面(一)参照)。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>